UXやUXのデザインについて、業界を横断的に見ていて気づいたこと

はじめに

このエントリーは「UX Advent Calendar 2013」の12月9日分の記事です。 

UXについてお話を繋いでいくのが趣旨だそうでUXのためのデザインを生業とする立場から日々の生活(これからの生活も含めて)思うところを書かせていただこうと思います。

明日からのお仕事に直接役立つような実践的な内容ではありませんので、そちらを期待していた方はそっとブラウザを閉じて・・・いや、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

※なお、本エントリーの内容は先日実施された「DevLOVE甲子園2013」での発表内容を元にしていますので興味のある方はこちらもご覧ください。

 
はじめましてのための方の自己紹介

改めまして、伊藤英明@itow_ponde)と申します。

お仕事はU'eyes Designという会社でのディレクター業です。このディレクターという肩書きはあくまで外向きのもので、仕事の内容としてはリサーチャーとしてアンケートの設計や分析、インタビュアー、ファシリテーターとして、インタビューやユーザビリティテスト、ワークショップなどの実施、エンジニア的な役割として仕様書を書いたり時にはデザイン画を起こしたりとかなり何でも屋で、現場では遊撃部隊的な立ち回りが多いです。

仕事柄、UXってどうやったら作れるんですか?とか、そもそも何をすることがUXなんですか?ということを説明する機会が多いのですが、ズバリこれがそうです!という説明をするのが難しいこともあってまずは文献を引用します。

ISO9241-210においては、

ユーザエクスペリエンス(UX):製品やシステム、サービスの利用、および・もしくは予想された使い方によってもたらされる人々の知覚と反応

①ユーザエクスペリエンスは、使用前、使用中、使用後に起こる、すべてのユーザの感情や意見、好み、感じ方、身体的・心理的な反応、態度、達成感を含む。

②ユーザエクスペリエンスは、ブランドイメージ、見た目、機能、システムのパフォーマンス、インタラクティブシステムのインタラクティブな振る舞いと支援機能、事前の経験から生じたユーザの内的および身体的状態、態度、スキルとパーソナリティ、利用の状況の結果である。

ユーザビリティをユーザ個人のゴールの視点から解釈する場合、ユーザビリティには、ユーザエクスペリエンスに伴って典型的に生じる知覚や感情などの側面を含むことができる。ユーザビリティの基準を用いて、ユーザエクスペリエンスの側面を評価することができる

と定義されています。

知覚、反応、感情、体験など、かつて感性工学を学んでいた私にとっては興味深い単語が並ぶのですが、いまいちはっきりしない印象です。

 

そんな中で、ノーマングループの定義が個人的にはしっくり来るのですが、

「ユーザーエクスペリエンス」は、エンドユーザーと「会社、会社のサービス、商品」の相互作用の全ての側面を含んでいる。

第一の要件は、混乱や面倒なしで顧客の的確なニーズを満たす事。

第二の要件は、所有する楽しさ、使用する楽しさを生み出す「簡潔さと優雅さ」である。

真のユーザーエクスペリエンスは、顧客が欲しいと言うものを与えたり、チェックリストに載っている機能を提供するだけでは十分ではない。

提供するサービスや商品において、クオリティの高いユーザーエクスペリエンスを実現するためには、「多角的な専門分野のサービス」のシームレスな結合が必要である。それらの分野とは、エンジニアリング、マーケティング、グラフィックデザイン、インダストリアルデザイン、インターフェイスデザインである。

 第一の要件として掲げられている内容は、いわゆる「ユーザビリティ」に相当するのではないかと考えていて、この定義からは「良いユーザビリティがあってこそ、良いUXの提供ができる」とも読み取れるのではないでしょうか。ユーザビリティや、それを実現するUIも、UXを構成する要素の一つだと今は考えていますし、また、UXとそれを構成する要素をグラフィカルに紹介した「The Difference Between UX and UI: Subtleties Explained in Cereal」でも多くの構成要素による「結果」としてUXがあるということが表現されています。

 

各業界の共通点の話

そんなことを考えながら色々な業界の勉強会やセミナーに参加するうち、このUXやUXのデザインについて、実は業界ごとに同じようなことに対して別の呼び方や考え方をしているのではないかと気づくようになりました。

こちらは「ゲームコミュニティサミット2013」というゲーム開発者の方たちの合同勉強会におけるDigraJゲームデザイン研究会さんの発表「開発のためのゲーム分析:手法と実例の紹介」のスライドです。

 

こちらの内容では、ゲームの基本構造は「ルール」「システム」「楽しさ・面白さ」であるとし、それぞれをMechanics (メカニックス)、Dynamics (ダイナミックス)、Aesthetics (アスセティックス・表現)と呼び、ゲームの構造のコンテクストを共有するための思想プロセス「MDAフレームワーク」として活用されています。

・Mechanics (メカニックス)
データ、アルゴリズムレベルのゲームの根本的な仕組み

・Dynamics (ダイナミックス)
様々なMechanicsの相互作用。プレイヤーの操作によって生まれてくる展開

・Aesthetics (アスセティックス・表現)
ゲームとインタラクションを通してプレイヤーが感じる望まれる感情

さらに下記のDigraAゲームデザイン研究会の簗瀬さんの「ゲーム分析実例」のスライドでは、この構造の違いによってユーザーに与える感情や体験にどのような違いが出るのかを解説しています。

ここで紹介されているのは「Halo」と「Call of Duty」という2つのゲームの比較です。どちらも「FPS(ファーストパーソン・シューティング)」と呼ばれるジャンルの、銃などの武器をで戦う1人称視点のゲームです。これらのゲームの根本的な仕組みであるMechanics (メカニックス)の大部分は共通していますが、ゲームの展開を左右するDynamics(ダイナミックス)の部分に違いがあります。

その違いは「シールド」というアイテムの有無で、「Halo」にはありますが「Call of Duty」にはありません。この1つの違いが、この有無がゲーム内の体験に大きな違いを与えています。

「Halo」ではシールドが機能している間はほぼ無敵の状態でいられます。ゲーム内での基本行動は敵の激しい攻撃の中でシールドを駆使して戦いを有利に運ぶ事になり、その戦い方は「人類の頂点に立つ戦士・ヒーローとしての体験」を与えています。

転じて「Call of Duty」ではシールドが無いため、戦場ではいつでも死と隣り合わせの状態です。ゲーム内での基本行動は敵の攻撃の中を掻い潜りながら隙を見て相手に攻撃を加える形になり、その戦い方は「リアリティのある戦場の一兵士としての体験」を与えています。

このように、プレイヤーの感じる感情であるAesthetics (アスセティックス・表現)の構成要素として、Mechanics (メカニックス)、Dynamics (ダイナミックス)が働いていることは、前述の多くの構成要素によってUXがあるということと同じなのではないか、UXのデザインとゲームデザインには共通点があるのではないかと考えています。

 

おわりに

考え方が同じではないかと気づいたところで次に気になっているのは、それぞれの業界で具体的な開発をすすめる際にとっている手段や手法です。

おそらく、各業界の現場や状況に合わせた方法の検討であったり、試行錯誤がされているのではないかと予想されるので、もっとお互いの現場やとっている方法について知ることが大事になってくるのかなと考えています。

きっとこのアドベントカレンダーに参加されている方はWebやアプリケーション開発に関わる方が多そうなので、そういった方たちとも情報交換や議論を進めていきたいですね。