作り手とユーザーをjoinする現場

はじめに

このエントリーは「DevLOVE Advent Calendar 2013「現場」」の6日目の記事です。

前回の滝川さん(@takigawa401)から「UXスペシャリスト」だと紹介されましたが、私はUXのデザインプロセスである人間中心設計の専門家です(英語ではCertified Human Centered Design Professional)。先日これの「スペシャリスト」を認定する制度の新設が話題になったのですが、プロフェッショナル>スペシャリストなのであしからずw(でもやっぱりスペシャリストの方が強そう…)

参考:HCD-Net | 認定制度 | 人間中心設計のスペシャリストを認定する制度を新設 News Release

自己紹介

改めまして、伊藤英明@itow_ponde)と申します。
ドラマや映画で海難救助をしたり、怖い教師役だったりの俳優さんと同姓同名ですが関係がありませんし、サンダーバード研究家の方と思われたこともありますが全くの偶然ですw

お仕事はU'eyes Designという会社でのディレクター業です。このディレクターという肩書きはあくまで外向きのもので、仕事の内容としてはリサーチャーとしてアンケートの設計や分析、インタビュアー、ファシリテーターとして、インタビューやユーザビリティテスト、ワークショップなどの実施、エンジニア的な役割として仕様書を書いたり時にはデザイン画を起こしたりとかなり何でも屋で、現場では遊撃部隊的な立ち回りが多いです。

こういった立ち位置になったのも、私が元々はデザイナー出身であることが影響していると思います。

大学では工業デザインを専攻していましたが、ある時期にゲーム「グランツーリスモ」をきっかけにGUIを専門にしているデザイナーの存在を知って独学と見様見真似で制作をしていました。Flashをつかって画面デザインのプロトタイプを作って、アンケート結果から最終案のデザインに仕上げるなど現在の仕事に近い事もしていました。

大学院では感性工学、認知工学視点からデザインを支援するシステムをつくる研究…つまりデザインを構成する要素(車を例にすると全長・全幅・全高の比率、ヘッドライトはつり目か垂れ目か…etc)を数値化し、どういう組み合わせのデザインが好き嫌いも含めてどのような印象を与えているのかを解析し、逆引き的にある印象を与えるにはどういうデザイン要素で構成すればいいかを導き出すという研究です(実は理系です)。

社会人になってから数年はデザイナーとして工業製品のデザインや3Dデータ作成などをしていましたが、その傍らでインタビューやユーザビリティテストのサポートスタッフなどもしていました。
最初はデザイナーとして何かを作ることに興味がありましたが、このサポートの仕事を通してモノよりもそれを使うコトやヒトに興味が移って行ったのが現在に至るまでの経緯です。元々はデザイナーだったのが、ユーザビリティエンジニアにジョブチェンジして、両方のアビリティを付け替えしながら仕事をしているような感じでしょうか。

私にとっての現場

前置きが長くなってしまいましたが、ここからが本編です…

私の現場は「作り手とユーザーの間」だと考えています。

私の会社は「人間中心設計=Human Centerd Design」に則ったプロセスでデザインをする事業を展開しています。人間中心設計は、作り手の「ユーザーはこのように使うのがいいに違いない!」という意識と、それを使うユーザーの「これはこのように使うのかな?」という意識のギャップから生まれる使いにくさ、分かりにくさを解消することも目的にしています。

この、作り手とユーザーの間にあるギャップを埋めるために、ユーザーの要求を調べるためのアンケートやインタビューを実施&その結果を分析して仕様化したり、製品やプロトタイプを使ったユーザビリティテストで問題点を明らかにしたり改善提案したりという形で「ユーザーの考えを作り手に伝える」ことでよりいいものを作ってもらおうとしています。

しかし、仕事を続けるうちに「作り手が評価、テストに対して恐怖感を覚えている」ということを感じることがありました。評価やテストを通して、自分が作ったものにダメ出しをされるんじゃないかと考えることがあるようで、作り手の助けになる存在であったはずが、ユーザーの声を借りて指摘をする恐怖の存在になっていたようでした。

自分の仕事は、ユーザーにとって何がいいのかを作り手に伝えることでよりいいものを作ってもらい、結果としてユーザーにいいものを届けることだと思っていました。作り手の側も「お客様は神様です」の精神でユーザーにとっていいものを作るのを良しとしてきました。

ですが、人間中心設計のプロセスはユーザーの情報を作り手に伝えて、ユーザーにとってどうあるのがいいのか「仮説構築」と、その仮説としての作り手の考えをユーザーに伝えてそれがユーザーの求めるものと合っているのかという「仮説検証」をすることの繰り返しです。

人間中心、ユーザー中心のものづくりはユーザーの言いなりになってものを作ることではなく、作り手の考えをユーザーに確かめながらより良いものをつくることだと考えています。

「三方良し」の精神で

近江商人の商売の心得に「三方良し」という言葉があります。これは「売り手良し、買い手良し、世間良し」という、売り手と買い手の双方が満足し、結果として世間に対しても貢献できるのが良い商売であるという考え方です。 

私(売り手)にとっての「買い手」はクライアントで、クライアントがいいものを作ることで世間のユーザーの満足に繋がると考えていますが、そのためにユーザーの要求を作り手に一方的に伝えていたのでは作り手の満足には繋がりません。
作り手の実現したいと思っていることをどのようにしたらユーザーに分かってもらえるのか、それを叶えることで新しい価値を提供するというやり方もありますし、それが「買い手」も満足できる形だと考えています。

そのようにして、双方向的に「作り手とユーザーを繋ぐ」ことが必要で、本当の意味で「作り手とユーザーの間に立つ」というのは「作り手とユーザーのいい関係をデザインすること」かと感じていますし、それを担える存在でありたいと考えています。

バトンタッチ

それでは、7日目の石沢ケントさんにバトンタッチしたいと思います。

直接の面識はありませんが、プロジェクトマネジメントに関するブログを書いている方なのでそういった方面のお話が聞けるのでしょうか。乞うご期待です。